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ハムスターと冬眠

秋が深まる時期から、毎年私は冷え性に悩まされるので、冬は常夏の南国に移住か、もしくは冬眠したいなどと思ったりするのですが、ハムスターオーナーの方々は、この時期になると「擬似冬眠に注意」というお話を聞くことがあるかもしれません。この冬眠という仕組みは、動物が厳しい冬を生き抜くために進化させてきた行動ですが、多くの点が不明で謎の多い行動です。今回、少しハムスターの冬眠についてご紹介したいと思います。

1、変温動物と恒温動物

動物は季節により体温が変化する動物と、体温がほぼ一定の動物がおり、前者を変温動物(poikilotherms)、後者を恒温動物(homeotherms)と呼びます。変温動物には爬虫類、両生類や魚類が、恒温動物には哺乳類と鳥類が含まれています。変温動物は外気温に体温が左右されるため、寒冷環境では低体温となり冬眠状態となります。一方、多くの恒温動物は寒冷環境でも体温を37℃付近に維持し冬眠をしません(できません)。しかし、一部の哺乳類では変温動物のように体を低体温状態にして冬眠ができるものがいます。冬眠する代表的な動物にクマやジリスがいます。そしてシリアンハムスター(以下ゴールデンハムスター)も冬眠する動物として知られています。しかし、単に冬眠と言っても、その冬眠の仕方は動物種によって違いが見られます。

2、動物による冬眠の違い

冬眠と聞くと、クマやジリスの様に秋に大量の脂肪を蓄えて巣穴にこもり、春が来るまで絶食状態で寝ている印象を持たれる方が多いと思います。しかし、この様な冬眠方法ができるのは体の大きな(大量に脂肪を体内に蓄えることのできる)動物です。シマリスやゴールデンハムスターのような小さな体の動物は冬眠に入っても数日(最長6日ほど)おきに目覚め、蓄えた食糧を食べて寒冷環境を過ごします。また、冬眠の入りかたによる分類では、気温や日照時間に関係なく、ある時期になるとセットされた体内時計が冬眠を知らせるかのうように冬眠に入るタイプ(obligatory hibernator)と気温や日照時間といった環境状態に依存して冬眠に入るタイプ(permissive hibernator)に分類され、ゴールデンハムスターは後者に入ります。つまり、ゴールデンハムスターは寒くならなければ敢えて冬眠をしない、冬眠は寒い時期を何とか生きながらえるための命がけの作戦とも言えます。

では、もっと体の小さなジャンガリアンハムスターはどう寒い時期を乗り越えるのでしょうか。体が小さいために十分な栄養を蓄えることができないジャンガリアンハムスターはゴールデンハムスターのように6日間冬眠することですら命の危険があります。実は、ジャンガリアンハムスターはデイリー・トーパー(daily torpor)という行動で寒い時期を乗り切ろうとします。

3、デイリー・トーパーとは

デイリー・トーパーとはジャンガリアンハムスターなどのような小型齧歯類が寒冷期にみせる適応行動で日内休眠とも言われます。気温が低くなり、餌が不足すると、この厳しい環境を乗り切るために、代謝活動を抑制し、体温を下げ、巣穴の中で小さく丸くほぼ動かなくなります(トーパー期)。この時間は長くても10時間から2日を超えることはなく、ほとんどが1日以内で再び高体温となり目覚め、蓄えた餌を食べます。そして、再びトーパー期を繰り返すこととなります。

ゴールデンハムスターの冬眠と比較すると、低体温の期間が圧倒的に短い点が異なりますが、もっと大きく異なる点は低体温時の体温にあります。冬眠するゴールデンハムスターの体温は冬眠中は外気温とほとんど同じ温度まで下がり、触れても全く動かない状態(ほとんど仮死状態)となりますが、ジャンガリアンハムスターの行うデイリー・トーパーでは体温はどんなに外気温を下げても十数℃を下回ることはなく、触ればヨボヨボと動きます。冬眠と比べると浅く短いものとも言えるかと思います。なぜ、ジャンガリアンハムスターは冬眠ではなくデイリー・トーパーという方法を選んだのか、一つの理由は、前述したように、その小さな体では数日分のエネルギーですら蓄えるのが困難だったことが考えられます。そして、その他にも、我々がまだ見つけられていない小型齧歯類がこの方法を進化させた生物的必然性が存在するに違いありません。

4、まとめ
-冬眠、デイリー・トーパーを起こさせないように飼育しましょう-

ゴールデンハムスターとジャンガリアンハムスターでは寒冷期を乗り切る方法は上記のように異なります。しかし、大切なことは、どちらのハムスターも快適な生活環境が提供されている限りは、冬眠もデイリー・トーパーもしないということです。冬眠もデイリー・トーパーもハムスターが寒い時期と真正面から対決をすると勝てないため、生き残る戦術として進化させた、ある意味命がけの対応策です。ですから、当然冬眠やデイリー・トーパーには命の危険も伴うわけです。本来地面に巣穴を掘って生活するハムスターですが、その習性の通り飼育されているケースは稀で、ほとんどはプラスチックケースに敷材を敷いて飼育されているので、冬眠するとしても、ケースの隅に丸まるしかありません。それでは、より命の危険も増すはずです。

巣穴を作れる環境で飼育されていようといまいと、寒冷環境にせず、冬眠やデイリー・トーパーにさせないことが、より安全な飼育方法と言えると思います。

参考文献

  1. Nobuo Ibuka. Comparative discussion of the seasonal adaptation in daily torpor of Djungarian hamsters and hibernation of Syrian hamsters. The Japanese Journal of Animal Psychology, 47, 2, 109-120 (1997)
  2. Chayama Y, Ando L, Sato Y, Shigenobu S, Anegawa D, Fujimoto T, Taii H, Tamura Y, Miura M and Yamaguchi Y. (2019) Molecular Basis of White Adipose Tissue Remodeling That Precedes and Coincides With Hibernation in the Syrian Hamster, a Food-Storing Hibernator. Front. Physiol. 9:1973. doi: 10.3389/fphys.2018.01973
posted date: 2020/Nov/20 /
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