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若くてもホルモン疾患?(副腎皮質機能低下症)
1、はじめに
ホルモン関連疾患として有名なものに、犬では糖尿病、副腎皮質機能亢進症、甲状腺機能低下症などが、猫では糖尿病や甲状腺機能亢進症があります。これらホルモン関連疾患のほとんどは、中〜高齢になってから発症することが多いので、若い犬や猫が来院した場合に、獣医師の頭の中の疑う病気(鑑別診断リストといいます)の上位にはあまり入ってきません。しかし、ホルモン関連疾患の中で若齢時にも認められるものがあります。それが、今回のタイトルにもあります副腎皮質機能低下症です。アジソン病という名前の方がよく知られているかもしれません。
この疾患は犬に稀に認められますが、猫ではきわめて稀な疾患です。症状が曖昧であったり、対処療法で症状が改善してしまうことも多いことから、発見に時間がかかったり、見逃されたりすることもある疾患です。
2、病因
- 原発性アジソン病
最も多い原因としては自己免疫機序(自身で自身の副腎を攻撃してしまう)といわれています。 - 二次性(続発性)アジソン病
最も一般的な原因はステロイド剤の長期投与後の急な休薬によります。脳の視床下部や下垂体の異常(炎症や腫瘍など)による場合もありますが発症はまれです。
3、疫学
猫に比べると、犬での発症が多い疾患ですが、それでも遭遇する機会は少ない疾患です。
他の主な内分泌疾患が高齢で発症する傾向がありますが、アジソン病は2ヶ月〜12歳の若〜中年齢(平均4〜6歳)の不妊手術をおこなっていない雌に好発すると言われています。
4、症状
症状が発症するには、副腎皮質の機能の90%近くが失われる必要があると言われています。最初はストレスのかかった時に軽度の体調不良が発現するといわれていますが、対症療法ですぐに改善してしまい、診断に至らない場合がほとんどです。やがて症状が重度となり、元気消失のほか、食欲不振、嘔吐、震え、下痢や脱水などを呈し、最終的にはアジソンクリーゼと呼ばれるショック状態に陥ることもあります。このように症状も非常に多岐にわたるため、より診断に時間がかかる可能性があります。
5、診断
血液検査では、脱水による循環血液量低下により高窒素血症を認めるほか、典型的には低ナトリウム・高カリウム血症という特徴的な電解質異常が認められます。しかし、非定型アジソン病という電解質異常を認めない病態も存在します。
最終的には、副腎から十分な量のホルモンが出ていないことをホルモン検査(ACTH刺激試験)で確認することで確定します。
6、治療
急性期(アジソンクリーゼ発症時)は、点滴により循環血液量を改善するとともに、ステロイド製剤を静脈投与するなどして状態の安定化を図ります。
慢性期(維持期)は、不足しているホルモンを経口薬等により補充することが治療となります。
7、予後
自然発生のアジソン病は適切な治療を行えば予後は良好で、生活の質を維持したまま天寿を全うできることが多い疾患です。しかし、治療は生涯続ける必要があり、定期的な検査を継続し、投薬を続ける必要があります。
一般に用いる薬であるフロリネフは国内販売もありますが、非常に薬価が高く、また、その他、国内では入手できない薬も治療に必要となる場合があり、治療薬の入手にハードルがあることも大きな問題と考えます。
8、最後に
本疾患治療薬に留まらず、国内では承認されていないため入手の困難な薬が多くあります。このように、ある地域では販売されている医薬品が他の地域では使用できない問題はdrug lagと呼ばれる議論となっているところです。ことさら日本における医薬品の承認が欧米より遅れがちであることは知られているところであり、新型コロナウイルス感染症治療薬でも感じられたことと思います。しかし、薬には必ず負の側面もあり、それが命に関わる事態となることもあることから、慎重な判断が求められることは当然とも言えます。難しい問題と思いますが、今後も十分な議論が進んでいくことを望んでいます。