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猫の伝染性腹膜炎(FIP)治療の現状

1. はじめに

以前は不治の病として知られていた猫伝染性腹膜炎(以下FIP)が画期的な治療薬による治療により回復したとの報告をお聞きになった猫好きな飼主様はすでに多くいらっしゃると思います。
このページではFIPの現状について簡単に触れたいと思います。

2. FIP治療の歴史

FIPは1963年に初めて報告された疾患であり、不治の病として長らく知られてきました。2018年頃からGS-441524による治療効果が報告され、さらに新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の世界的な流行によりレムデシビル(米ギリアド社によりエボラウィルス治療薬として開発)などを用いた治療などの選択肢が皮肉にも広がることとなりました。

しかし、多くの獣医師や愛猫家の期待に反して、GS-441524はFIP治療のための販売承認がとられることはありませんでした。結果、未認可GS-441524が出回ることとなり品質、純度や効力に対する懸念が生じました。

しかし最近では、英国においてはBOVA UK社からGS-441524、レムデシビルの販売が始まり、また国際的な治療プロトコル(ISFMプロトコル)が報告された他、FIPに対する有効性が知られていた新型コロナウィルス感染症治療薬であるモルヌピラビルに対しての使用報告が出てくるようになり、さらに治療の選択肢が広がっていることは非常に嬉しいことです。

3. 当院での治療成績等

現在までの当院での治療の印象も、モルヌピラビルに対する治療効果は良好で、無事12週間の投薬を終え、寛解を維持している子もいます。
とはいえ、まだまだ報告が十分とはいえず、最適な薬用量、投薬期間、治癒の判断、副作用等が明確になっているわけではなく、また投薬はあくまでも適用外使用となる点には注意が必要です。

これでFIPを克服した訳では決してありません。治療に100%はなく、治癒しない猫や再発する猫もいること、今後も遺伝子変異により薬が効かないウィルスの出現もあり得るなど、自然・生命は常に我々の予想を超えて存在します。これらに対し、我々は常に謙虚である必要があると思います。
今後も、さまざまな報告等の注視が必要です。

4. 最後に

依然としてFIPの診断は非常に困難な場合が多く、腹水等が貯まるウェットタイプと呼ばれるFIPでない場合、診断には複数の結果をレンガを積み上げるようにしながら疑っていく必要があり、最も診断の難しい疾患の一つでもあると言えます。まずは、正しい診断があって、正しい治療が行えます。今後も、治療薬だけでなく、画期的な診断法が見つかることも臨床家としては多いに期待したいと思います。

参考文献

  1.  Okihiro Sase: Molnupiravir treatment of 18 cats with feline infectiousperitonitis: A case series. J Vet Intern Med. 2023; 37:1876–1880
    2.
  2. Niels C Pedersen, et al.: Efficacy and safety of the nucleoside analog GS-441524 for treatment of cats with naturally occurring feline infectious peritonitis. Journal of Feline Medicine and Surgery 2019, Vol. 21(4) 271–281
  3.  Séverine Tasker, et al.: Feline Infectious Peritonitis: European Advisory Board on Cat Diseases Guidelines. Viruses 2023, 15, 1847. https://doi.org/10.3390/v15091847
  4.  ISFM Protocol: An update on a treatment of feline infectious peritonitis in the UK (Updated November 2021).
posted date: 2024/Feb/23 /
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