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熱中症に注意
晴れて太陽が出ると、早くも初夏を思わせるくらいの陽気となってきました。環境省は、男性も日傘を使うように呼びかける初のキャンペーンを行う予定のようです。日傘は帽子より暑さによるストレスを軽減できるそうですので、近い将来、男性も日傘をさして歩くことが普通の光景となるのでしょうか。
犬の熱中症についても、この時期からよく耳にすると思います。今回は、熱中症について少しお話ししてみようと思います。また、猫でも当然、熱中症になります。注意点等は同じですので、猫の飼い主さまもご一読いただけたらと思います。
1、熱中症とは
熱中症は、高温多湿に長時間晒されることで、高体温、脱水となった結果生じる全身性の疾患を言います。体温が42.8℃に達すると体の細胞に障害がおき、多臓器不全に陥ってしまいます。
2、原因
体温は体内で作られた熱と外部環境から受ける熱(熱利得)および熱放散(輻射、伝導、対流、蒸発)のバランスによって決定されます。このバランスが崩れ、熱利得が熱放散より大きくなると(熱がこもって逃げづらくなると)体温は上昇することとなります。このバランスが崩れる原因として以下のようなものがあります。
①高温
熱いアスファルトの上での散歩、締め切った部屋や車内に長時間放置されることの他、トリミング時にドライヤーの熱風に当たり続けたため生じる事もあります。体温を下げるときは、皮膚の血流を増して熱を逃がそうとしますが、高温下では熱うまく逃げなくなり体温が上昇しやすくなります。
②多湿
汗は1gの蒸発につき0.58kcalの熱を体から奪って体を冷却する強力な冷却方法ですが、犬は汗腺の発達が乏しく、蒸発による体温調節はパンティングで行います。どちらの方法にしても湿度が高いと蒸発量が減るため、熱がこもってしまうこととなります。
③過度の運動
運動時には筋肉で大量の熱が発生するため、体温が上昇します。ここに高温多湿環境が重なると、上記①、②の理由で、上昇した体温をうまく下げることが出来なくなります。また、激しいパンティングによる水分の蒸発により脱水となると体表を流れる血液量が減るため、体表から熱が十分に逃げなくなってしまいます。
④身体的要因
短頭種(短頭種気道症候群)、肥満、大型犬、心臓疾患や呼吸器疾患などは、熱放散能を下げる原因となるため、熱中症の危険因子として挙げられます。
3、症状
初期は粘膜のうっ血、充血、頻脈や激しいパンティングが見られます。より重篤になると虚脱、運動失調(神経症状)、嘔吐、下痢、流涎、意識消失、発作などが認められる他、肺水腫や止血異常による血尿、血便、吐血、点状出血を認める事もあり、短時間で亡くなるケースも少なくありません。
4、治療
熱中症は緊急疾患であるため、なるべく早く治療を開始することが大切です。熱中症が疑われた場合には、病院に来るまでの間に、飼い主さまに可能な限り冷却処置を開始してもらうことが救命に繋がります。
①飼い主さまに行っていただきたい対応
・体温の確認
可能な限り直腸温を確認(体温計をお尻に刺して計測)します。41℃以上であれば、即座に冷却処置を開始します。
・冷却処置
体を水で濡らすか濡れたタオルで体を包み、扇風機などで風を当てて冷却します。その他、アイスパックを首などの太い血管にあてる事も有効です。四肢をマッサージして抹消血管を拡張させ熱放散を促します。
ただし、氷水など冷たすぎる水は、体表の血管を収縮させてしまい、熱が逃げづらくなるため用いないで下さい。
②病院での対応
・冷却処置の継続
目標体温(39.7〜40℃)まで体温を下げます。
・各種検査の実施
血液検査、レントゲン検査や尿検査を実施して、臓器の障害の程度を評価します。
・点滴等の実施
生じている症状に応じて、酸素吸入、点滴、利尿、血糖値維持や神経症状、血液凝固異常や消化管障害に対する治療を実施します。
5、予後
熱中症により受診した犬の死亡率は50〜60%と言われています。救命出来ない子の多くは、受診後24時間以内に亡くなってしまいます。
思われているより高い死亡率ではないでしょうか?熱中症は予防出来る疾患です。年々暑くなる夏を健康に乗り切る為にも、熱中症対策は十分にしてあげて下さい。最後にいくつか注意点を列挙しておきます。
アニコム損保から「犬の熱中症週間予報」という熱中症予防啓発ページもありますので利用されてみても良いかもしれません。(https://www.anicom-sompo.co.jp/prevention/stopheatstroke/)
熱中症対策例
1、留守番させる際には、エアコンをつけ、また通気性の良い場所を作るなど室温が高くならないようにし、十分量の水が自由に飲めるようにしておくこと。
2、散歩は早朝か夜の地面の温度が下がっている時間帯におこない、飲み水も持参すること。(アスファルトはいつまでも熱いので、土の上を歩かせる方がより安全です。)
3、キャリーバッグに入れて外出するときは、動物の様子を頻繁に確認し、地面に置くときは、日陰に置くようにすること。
4、車の中に放置しないこと。冷房を入れた状態で車内において置くときでも、直射日光が当たらないようにする(建物の影などは時間とともに影が移動します)他、冷風がちゃんと循環するか(後部座席の下などは以外と冷風が届きません)注意して下さい。
参考文献
平田耕三 (1996) 「体温調節系の働きと温冷感・湿潤感温熱生理学の立場から」, 『繊維機械学会誌』, Vol.49, No.5, p11-15
Bruchim Y, Klement E, Saragusty J, et al., ‘Heat stroke in dogs: A retrospective study of 54 cases (1999-2004) and analysis of risk factors for death’, J Vet Intern Med 20(1), 2006, 38-46